チャプター9 文献案内

さらに学びを深めたい読者のために,いくつかの文献を紹介します.ちなみに,経済学者の黒川博文先生(Twitter:@kurodotty)がさまざまな因果推論の文献をまとめてくれたありがたいリストを公開しています(因果推論のための計量経済学).こちらも大いに参考にしてください.Twitterで#因果推論本の読む順番というハッシュタグで検索するといろんな賢い人々が読書の道しるべを示してくれます.

因果推論入門

中室・津川(2017)も伊藤(2017)も,因果推論の重要性を平易に解説しています.どちらも具体例を交えながら,因果推論の代表的な手法を概説してくれるので,入門書としてぴったりです.とりわけ,中室・津川(2017)は興味深いです.中室・津川(2017)の中で紹介される因果関係の3条件は『原因を推論する』における因果関係の3条件と異なります.その違いについて考えてみることは因果推論の理解を試す良い訓練になります.いずれも数式はほとんど出てきません.

因果推論中級

いずれもより本格的な因果推論の教科書です.数式が出てくるので少ししんどいかもですが,デュフロ他(2019)に関しては,意外と薄いのでなんとかなります.ちなみに,著者の一人であるデュフロは2019年のノーベル経済学賞受賞者です.因果効果を形式的に定義することの便利さを体感してください.アングリスト・ピスケ(2013)もとても有名な教科書です.

R入門

邦書の中では,最も読み手に対する優しさを感じさせてくれるRとRStudioの入門書です.ただ,この教科書を読んだ後でも,エラーメッセージはやっぱりこわいです.また,著者であり政治学者である浅野正彦先生(Twitter:@asanoucla)の研究には興味深いものが多いので要チェックです.

Rと計量分析

浅野・矢内(2019)は非常におすすめです.政治学徒のみならず,経済学徒にも使いやすい教科書です.星野・田中(2016)も定番な感じがあって,おすすめです.今井(2018)は,Rによる計量分析の世界的標準とも言える入門書です.ちなみに今井耕介先生は,一部からは「世界のImai」と呼ばれたりするほどすごい因果推論の研究者です.安井(2020)はTwitterデータサイエンス・計量分析界隈でとても絶賛されていますが,わたしはまだ持っていないのでわかりません.でも,評判を見る限りはかなり良さそうです.おり,わたしも読みましたがとても良かったです.著名な経済学者である大竹文雄先生(Twitter:@fohtake)によると,浅野・矢内(2019)→安井(2020)と読み進めるのが良いらしいです.

『維新支持の分析ーポピュリズムか,有権者の合理性か』(有斐閣)の業績によって第41回「サントリー学芸賞」を受賞された善教将大先生(Twitter:@MZenkyo)も,安井(2020)をおすすめしています.

統計学・計量分析

森棟他(2015)は基本的な統計学を網羅しており便利です.フルカラーなので親しみやすく,読みやすいです.田中(2015)は読み手に非常に優しい計量経済学の入門書です.正しく「第一歩」に相応しい教科書です.西山他(2019)は計量経済学の代表的な手法を網羅しながら,簡潔で明快な解説がなされており,コンパクトで大変便利な一冊です.計量経済学の世界的標準の入門書としては,WooldridgeのIntroductory Econometricsがありますが,これよりも西山他(2019)の方が優れていると思います.英訳されてもおかしくないくらいの良書です.

大事なこと

計量分析に携わるのであれば,分析手法の力を磨くことはとても大事です.それはスポーツにおける基礎体力に対応するとも言えるでしょう.試合の途中に息切れしてしまっては困ります.とは言え,基礎体力の訓練ばかりしていて,実戦形式の練習を怠ってしまっては元も子もありません.実証家として生きていくならば,これらの本はあくまでも「よくできたクッキング・マニュアル」(『原因を推論する』,p.241)だということを忘れないようにしましょう.